
【増永】 これまでの経営上の苦労もたくさんあったかと思いますが、特に苦労した点などあれば教えてください。
目標にしているのは、世の中にイノベーションを起こすことです。かつ、世界に通用するグローバルカンパニーをつくりたい。そのきっかけが、どうにもまだ掴めていないということが、いちばんの苦労でしょうか。
まったく掴めていないというわけでもないのですが・・・まだ成し遂げられていないんですよね。進んでいる方向は間違っていないと思っているのですが、実際はできていない―このもどかしさも、なかなか辛いものです。しかし、いつかそれを引き寄せたいと思っています。
● 澤社長の目指すグローバルカンパニーとは、具体的にどのような会社になるのでしょうか。
分かりやすく言えば、日本の売上が半分以下になり、かつ時価総額1,000億円規模の会社ですね。ちなみに、1,000億円というのはあくまで目安なのですが、1,000億円の時価総額がある企業は社会のインフラと言えるだろうということです。
もちろん、すぐに実現できるような簡単な話でないことは重々承知しています(笑)。ただもう少しでうまくいきそうなのに、それができていないことのジレンマに悩んでいる感じです。
● そうしましたら、澤社長のおすすめの本などあればお願いします。
ジャンルとしては歴史小説、特に戦国時代を扱ったものがすごく好きで、司馬遼太郎さんや堺屋太一さんの本はよく読んでいます。なぜそういったジャンルに興味があるかというと、群雄割拠した戦国時代と今のIT産業の構造に類似点があるように思うからです。
たとえば私なんて小大名のようなものですが(笑)、その中で領地を拡大しないことには、部下もついてきてくれないので、そのためにも一生懸命頑張るとか・・・特にベンチャー企業は売上が伸びるなど、目に見える成長がないと社員は納得してくれないのが現実ですから、そのあたりが似ていると思いませんか。
やはり伸びている・成長している環境を作っていかないと、社員はついてこない、もしくは他社と組んでいかないと生き残れないとか・・・戦国時代と今のIT産業の環境はすごく近しい感じがして。そういう視点で読むので、特に戦国時代の歴史小説が好きです。
● 戦国時代の中で特に好きな人物はいらっしゃいますか。
真田幸村や山中鹿之助になります。山中鹿之助についてはなかなか渋いチョイスかもしれません。
個人的な意見となりますが、人生は成功だけがすべてではない。プロセスの中で自分自身満足・納得できるかどうかが、いちばん大切であると思っています。
そういう意味で、真田幸村は小大名だけれど、関ヶ原の合戦では大軍を引き連れた徳川秀忠を迎え撃ち、少数の真田隊が勝り小さな城を守りきりました。最後の最後まで知力も使い勝利をおさめているあたり、結果だけでなくプロセスも重視した生き方にも捉えることができ素晴らしい生き方であるように感じます。
真田幸村については、大阪夏の陣で亡くなったと言われていますが、彼には多くの影武者がいたとの説もあり、本当のところは分かりません。
いろいろと上手く振舞って大成功をおさめる結果ももちろん大切ですが、彼のようにあるべき姿を貫いて振舞っていく姿も、生き方として素晴らしい。きっと彼が死ぬとき、自身の人生に満足していたのではないかと思います。
生まれてきたからには、死ぬときまで自分がどこまで一生懸命生きることができるか・・・ここが大事だと思うんですよね。常にそれは私も大切にしていて、こうした人生観をもってこれからも生きていきたいと思っています。
だから大成功することも大切ですが、それよりも自分自身が死ぬときに、「自分の人生は幸せだったな、これ以上はないくらいに頑張ってきたな」―そう思える人生を過ごしたいです。
● 好きな言葉があれば教えてください。
先ほどの「三方よし」もそうですが、それ以外にも「愛」という言葉も好きです。直江兼続の大河ドラマで流行る前から注目しており、当社のホームページをご覧いただければ分かると思いますが、「愛」を前面に押し出しています(笑)。
ちなみに、この「愛」は自分が社員に指示をだしたのではなくて、社員が勝手に「愛」と書いてくれたんですよね。少し恥ずかしかったのですが、社員が書いてくれたので「まぁいいか」とそのままにしています。
なぜ「愛」にこだわっているかというと、「三方よし」に通じるところもあるからなのです。お客さまにも「愛情」、社員・仲間にも「愛情」という気持ちを大切にしていることの表れになります。ではここでいう「愛情」とは何か。
たとえばお客さまに、必要のないものを値引きして安くして購入してもらうとか、接待をたくさんして売上にこぎつけるとか・・・こういう手法は、私自身が大嫌いなんです。
お客さまとは、常にフィフティフィフティ、対等な関係であるべきだと私は思っています。これはお客さまとの関係だけに限らず、上司と部下でも同じだと思うんですよね。
なぜなら、上司と部下の関係の場合、上司は部下が働きやすい環境を与えて、働き続けてもらうことを思い、そして何とか成果を上げてもらうために教育などマネジメントをしています。これに対して部下は、結果を出そうと必死で仕事をする。
お互いに相手を思って行動する、こうした関係であるべきだと考えます。経営者と社員も同様です。売る側と買う側ももちろん同じ。買う人が満足できる商品を提供できたなら、買う人は「買ってやった」とならないですよね。そういった関係にしないといけないということです。―そういうポリシーをもって経営をしています。
私たちから購入することによって、その人が幸せになれる姿を生み出すことが、売る側としての責務であるのです。これが私たちの基本的なポリシーであり、ひとことで表すと、「愛」なのです。
ただこれが、偽物の愛・・・たとえば接待づけにしてしまうとか、一見お客さまのために尽くしているようにしていても、そこには単に自分たち本意での思惑しかないとか、そういうのは困りますよね。常にいつもお客さまの事業を考え、成功するためにはどうすればいいのかベストを考えること。この考えをベースにして、お客さまとの関係を継続していきます。これが私たちのいう「愛」なのです。
● ありがとうございます。では最後に、御社のビジョンをお願いします。
上場を目指しています。とはいえ、上場することが目的ではなく、まず1つの手段であると考えているんです。そして、グローバル展開へとつなげていきます。国外での売上が全体の半分以上を占めるようになることが、まずは目標でしょうか。そういう環境を作り上げていきます。
そしてもう1つ。各企業さんにおいて、ソーシャルメディアが自社の売上向上になくてはならない存在に仕立てあげること。今の社会では、100社の企業があるとするとソーシャルメディアに関心を持っている企業は30%ほどと言われています。
そして実際に当社のお客さまになっている割合は、約20%。このうちソーシャルメディアを有効活用できている企業は、1%〜3%といった世界です。
この数%の数値を、近い将来は2桁までもっていきたいと思っています。まず多くの企業さんに使っていただくことがベースであり、私たちの社会的責務であると認識しているのです。そこを固めてから、世界へと目を向けていきます。
【完:5/5】


【増永】 御社では澤社長が3代目となりますが、澤社長になったことで起きた変化などあればぜひ教えてください。
分かりやすく規模的なところを申しますと、私が入る前は従業員の合計が役員を含めて4名の会社でした。そして今は、非常勤も含めて50名となっています。
以前であれば、お客さまから「これを作って」とリクエストいただいてからシステム開発を行なっていましたが、自社サービスを提供する形に大きくビジネスモデルも変わりました。
どうしても請負だと、業績に波があったりするのですが、今では半分以上がストックビジネスで売上があがっている―これらの点が、私が経営に携わってから大きく変化したところになります。
● 会社のデータを見るかぎり、資本金も変わっていますね。
そうですね、もともと2,000万円程度だったのですが、今では準備金も合わせて1億7,000万円程度になっています。
資本金規模も8倍くらいになり、社員も12倍ほど。さらにビジネスモデルも大きく変化した上に、さらに大きな変化といえば・・・世の中の変化でしょうか。ツイッターもフェイスブックの登場もごくごく最近の話ですからね。
そもそもインターネットメディア自体が「一部の人のメディア」であり、一般的にはあまり信頼性が高くありませんでした。ところが震災以来、ツイッターでの情報流通がいちばん早かったとか、アラブ諸国での革命はフェイスブック経由で実現したとか・・・ソーシャルメディアが重要な役割を果たし、一般的なメディアとして成立しています。こうした社会的状況での変化が大きく影響しているのも間違いないですね。
● 現在の会社と出会ってから、「もし自分がこの会社の経営者になったら、ここをこうしていきたい」というイメージは持っていたのですか。
イメージは持っていました。2009年7月に社長に就任した際には、過去の投資を実行した経験から「投資をしてもらう」逆の立場として、ノウハウがあり、投資をしてもらえる自信をもっていました。1億円ぐらいすぐに調達できるだろう―そう高をくくっていたんです。
ビジネスも絶対に伸びると自信をもっていました。しかし、リーマンショックの影響は思いのほか大きく、この時期ほぼすべての投資家が一旦投資活動を休止していたんですよね。
資金調達をどこからも協力を得られず・・・きちんと事業計画を立てて論理的に説明できれば、苦労なく資金を集められると思っていました。ベンチャーキャピタルや投資会社などおそらく50社は回ったと思います。
想定どおりに物事が運ばなくて、苦労しましたね。だけど、どんなに実を結ばなくても、自信をなくすことは1度もなかったんです。むしろ、「なぜ、理解できないのか」と思っていたぐらい(笑)。
最終的には日本生命さんや三井生命さん、そして早稲田大学を発祥としたウエルインベストメントさんの3社から5,000万円ほど増資していただくことができました。そして増資した資金をもとに、人員投資、設備投資を行ない、売上を伸ばすことができたのです。
● それまでの売上はどうだったのですか。
私が社長としてこの会社に入ったときは大赤字でした。だからよけいに増資が難しかったというわけです。最近は、少し良い風が吹いていますが、当時の日本のベンチャーキャピタルは、赤字だったらまず投資してくれなかったですね。
であれば、とりあえず黒字転換して、逆に「この会社に投資したい」と相手から思われるような会社にしてやろう―そう決意しました。
その次の期には、売上も利益も伸びたんです。そうしたら、おもしろいぐらいに「データセクションに投資したい」と声がかかるようになりました(笑)。景気が悪い時期には、やはり黒字を出していないと、日本の場合は投資していただくのは難しいということを体感しましたね。
最近当社では、アメリカ企業との事業提携の機会が多いのでいろいろと情報交換をすることもあるのですが、リスクを取らずに黒字にして成長していくような企業というのは、ほぼないらしいです。
多くの企業は赤字スタートで、そんな中でもベンチャーキャピタルの協力が入り人材も追加され、さらに赤字幅は大きくなります。そしてここから無理やりにでも伸ばしていくというモデルが、スタンダードになっているんです。
ですので、アメリカの投資家からすると、「ベンチャーは黒字を出していないと投資してくれない」という状況を理解できないようでした。
赤字のときと黒字のときとでは、話を聞いてもらえる姿勢も急激に変わることを実感し、この環境自体に私は疑問を持っていました。要するに日本のVCは金融機関の融資と同じだったんですね。
しかし、最近のベンチャー企業への投資環境は若干変わってきたようにも感じています。
最近、トーマツの斎藤祐馬さんや、スカイランドベンチャーズの木下慶彦さんなど、ベンチャーを活性化させようと若い世代が頑張っています。このような頑張りが、投資環境を変えてきているのではないかと思っています。彼らのパワーはすごいなと思いますね。
【続く:3/5】

【増永】 世界で見ても、日本はSNS等での情報量が多いという事実が、現在の仕事に結びついていったということですか。
そうですね、もちろん世界的に見ていけばアメリカが多いのですが、それに次いで日本も多い。コンピュータ上で1文字を表記するのに2バイトを要する言葉を使う国の中では、世界でトップではないでしょうか。
日本と英語で大きく異なる点は、単語の区切れの有無です。英語は単語で切れますが、日本語や中国語、韓国語の場合、どこまでが単語で名詞になるのか細かに見ていくと分かりづらいんですよね。
欧米の企業が日本を含むアジアに本格進出できない理由も、実はそういう言葉の1バイトと2バイトの壁が影響しているようにも感じます。2バイト系のソーシャルメディアを通したモデルであれば、世界でも通用する、さらには勝てるのではないか・・・そう思ったんです。こうしたことを10年ほど前に感じ、8年ほど前からグローバル展開を意識した形でビジネスモデルを作ってきました。
今から5年ほど前の話になりますが、慶応大学でネットメディアの未来について語る講演をしている、橋本という人間に出会ったのです。彼は私の持っていないところを持っている、私と相反するところがある。一緒にやっていけば、面白いことができるのではないか・・・そう感じて、彼に「ネットをとおして商品が売れるようなきっかけをつくる仕組み・ビジネスモデルをつくろう」と声をかけたんです。
そして、先ほどの白雪の詩の話もしたんですね。「こうした事例をもっと他のメディアで実現できれば、もっとすごい時代が作れるよ、一緒にやろう」と口説きました(笑)。
もともとデータセクションという会社は、橋本が代表となり立ち上げられた会社で、当初は請負案件で利益を出していました。そこをモデルチェンジして、会社として変わろう、その変わるきっかけになろうと口説き続けたんです。それで、前職時代にデータセクションと業務提携を結んだのが初めだったのです。
その後、新しい会社を立ち上げようと準備をしていたのですが、橋本が「別に新しい会社を作らなくても、データセクションで一緒にやろうよ」と言ってくれ、さらに「澤さんがMBOをしてこの会社の株を好きなだけ買ってくれていいよ」と。
私への信頼そして可能性を信じてくれたおかげで、私が2009年7月1日に筆頭株主となり、データセクションの代表として就任しました。現在、橋本は取締役会長として共に頑張っています。
● では、現在の事業内容を教えてください。
主要事業は、ソーシャルメディア分析事業となります。
ソーシャルメディアの情報を1日あたり約6,000万件から7,000万件集めて、これらの情報を企業さんに対してSaaS型のツールとして提供しています。膨大な量をかき集め、それらを分析することで、商品の流行などを掴めるようなきっかけになるんです。こうした情報を必要としている企業さんは、たくさんいますから。
そしてこれらの膨大なデータを基にして、情報分析を含めたソーシャルメディアのリサーチ・コンサルティングも提供しています。
2013年の4月2日には、ソーシャルメディアのリサーチ・コンサルティング部門を独立したソリッドインテリジェンス株式会社という会社を前職時代一緒に働いていました林健人(データセクション取締役兼任)を社長に据え設立いたしました。これは、アンケートをリサーチする会社はたくさんあるのですが、ソーシャルメディアをリサーチする会社はまだほぼない。このことからビジネスチャンスを感じ設立することとなりました。
私たちはOEMでシステムを提供しておりますが、これらSaaS型のツールをさらに「自社向けにカスタマイズしてほしい、デザインを変えてほしい、持っているデータソースを追加して自社サービスを早急に立ち上げたい」等の各社の要望があるので、それに応える形でセミオーダー型の開発も行なっているんです。
直近では、先日5月5日の日経新聞の7面で大きく取り扱っていただきましたが、「選挙ウォッチャー」という、政党・政治家のソーシャルでの声と、国民の世論の声とを客観的に見ることができるポータルサービスを立ち上げました。
ネット選挙が解禁されることで政治家はネット上での発言に、より責任をもたないといけないし、国民の世論をネットから吸い上げないといけません。また一方で、国民は世論の声、政治家の声を生でたくさん理解できるきっかけにもなるわけです。
そういったところから、政策に対する議論がより成熟化され、日本が良い方向に進むきっかけになるのではないかと思っています。
こうした意義を考慮し、利益度外視でサービス提供を始めました。リリース後、テレビ局からも取材が来るなど、たくさんのメディアから問い合わせがありビックリしています。でも、それだけ注目していただけ、期待されているのだと実感しているんです。
● なるほど、では情報分析といったところで、何か事例がありましたら教えてください。
たとえば過去に、「人はどういうときに、プリンを食べたくなるのか」を分析したいという声があったんです。
プリンを食べたくなるときって、どういうときか想像できますか?こうしたオーダーがあったとき、さまざまなソーシャルメディアを分析していくのですが、調べていく中で「風邪」というキーワードが出てきたんですよ。風邪とプリンって、なかなか結びつかないですよね(笑)。
「子どもの頃、風邪をひいたときに親がプリンを出してくれた」という思い出話について、ネット上でコメントやつぶやきがあったりしたんです。こうした経緯から、誰も想像できなかったような情報を知ることができ、思いもよらない結果にたどり着きました。これがポイントになります。
分析をするときは仮説を立てて、そこから発展して「こういうものだ」と結論づける、そんな思い込みがあったりするのですが、実はもっと見えていない事実にたどりつくこともある。それをプロモーションにつなげることができます。
今の話でいけば、たとえば薬局で風邪薬の横にプリンを置いてもいいじゃないですか(笑)。顕在化されていないニーズに応えることができる、そんなチャンスになるのです。
ソーシャルメディアを通じた効果測定を行なうことで、潜在的なニーズにたどり着き、今まで知らなかったことを発見することができるのです。
【続く:2/5】





